大工だからできる家

木の家づくりには、木の知識や経験が必要です。
常に木に触れ、木を知り抜く大工棟梁と、
木の性質を活かしきる
家づくりをしませんか?
綾部工務店の大工棟梁、綾部孝司が書いてます。
2018年5月5日

環境に配慮しつくるために

久々に秩父へ行く機会がありました。
国道299号線を走って行くと必ず目にするこの光景。山肌を削り取られた名山「武甲山」。
建築を生業にしている上で切り離せない石灰岩との関係。毎回この名山を見るたびになんとも言えぬ気分になります。
ここ数年、建築にできるだけセメントを使わない事を心がけているのですが、この光景を見ると改めてその思いが深まります。

もともと素材を長持ちさせる事で環境への負荷を最小限に抑えていた日本の建築。
循環資源である木材を適切に使い長持ちさせる事で鉱物資源などもできるだけ長く使用し、その後の再利用までイメージして建築することが大切であることを再認識しました。

建物を長持ちさせるには、次の点をクリアする必要があると思います。
・物理的な耐久性、・機能的な耐用性、・意匠的な普遍性、・維持管理の容易性、・技術と倫理観の継承など
また、建てるにあたっては、工学的な検証性も必要となります。

工業建材を使わずに木材などの生物素材や自然の鉱物素材をのみで建物をつくるには、苦労が付きまとう状況ではありますが、関係者の不断の努力により、法律の方も伝統的な構法の建物がつくりやすく変わって行くものと期待しています。
この国の木造建築が環境と共生するものに回帰して行くことを願いながら、できることを続けて参ります。


2014年9月30日

本小松石という礎石 

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真鶴半島の付け根のところに、本小松石の採石場があります。本小松石は今から約40~45万年前に箱根の何回かの噴火によって作られた輝石安山岩です。緻密で耐久性耐火性に富み、吸水性が小さいのが特徴です。

1200年程前の墓石に小松石が発見されていて、鎌倉時代には関東の石材の主要な産地であったそうです。江戸時代には、徳川家康が小松石で江戸城の石垣を築きました。そして川越周辺の古い建物の基礎はというと、やはり小松石を含む安山岩が多く使われている様です。

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さて、そんな小松石の産地を訪れたときに知りましたが、この石はある程度の大きさの塊として、採掘されます。切り出す訳では無いそうです。塊同士の境界面は、紫がかった茶色で野ずらと言い、侘び寂びを感じる趣のある肌面です。

添付した写真は、以前施工した石場建ての住宅に採用した石の加工風景です。野ずらの石も使いましたが、多くは四角く加工し、表面にビシャンをかけました。

とてつもなく長い時間をかけてできた石を用い、その上に建物を建てる事は、単に意匠性や耐久性を高めるためという事以上に、大地と一体になった暮らし方を見つめるきっかけになりそうです。

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2012年11月17日

竹採り

今年の竹採りの様子です。小舞として使う為、伐採から竹割り、節取りを行っている様子です。竹の虫の付きにくいデンプン量の少ない時期に採取をします。使う時期が先の場合は丸竹のまま保管し、必要に応じて割って使っています。表面のワックス質からは虫が入らず、節や切り口から侵入する為そのようにしています。



殺虫剤を使わず素材を健全に保つ為には旬切りと管理、選別が大切です。
私が採取したチビタケナガシンクイムシの画像がありましたので載せておきます。体長は2ミリちょっとです。
虫の生態まで知っておかないとという事でいろいろと調査中です。


2009年6月6日

木の乾燥(どちらを選ぶ)

木は乾燥していた方が良いと言われ、法律でも含水率が決まっていますが、注意しなければならない点があります。

写真の左側が、KD材といわれる高温乾燥材、左側が天然乾燥材です。
それぞれの特徴はというと、
KD材(高温乾燥材)の特徴
・色がくすんでいる
・内部にヒビがあり、表面には無い
・短時間で乾燥できる
天然乾燥材の特徴
・色がきれい
・表面にヒビがあり、内部には無い
・乾燥に半年〜2年かかる
柄が命の伝統的構法では、内部にヒビが出にくい天然乾燥材が素材として向いています。
次の写真の様にKD材を組んでいたところ内部のヒビが広がり2つに割れてしまいました。
一番下の写真はKD材に長柄をつくったもの、半乾き材で代用しこの材の使用はしませんでしたが、こんな材が流通している事は怖い事だと感じています。隠れた瑕疵に該当しそうです。



皆さんは家をつくられるときどちらを選ばれますか。


2009年4月5日

松の皮むき

地松梁の皮剥がしの様子です。今シーズンの松太鼓梁は、皮を剥がして磨き仕上をしてみました。

20MPクラスの高圧洗浄機に回転ノズルを付けて一気に鬼皮を剥きます。あま皮がほぼ取れた状態で金たわしとパームたわしで残ったあま皮を取り除きます。水で洗浄し、タオルで拭き上げると写真の様になります。荒ヌカが用意できなかったので、代りにたわしで磨いています。枝付きの丸太などもきれいに剥き上がります。1本出来上がる迄に90〜120分くらいかかりました。すぐに風通しの良いところで乾かし、雨がかからない様に自然乾燥します。使うのは1〜2年くらい先です。


2007年11月2日

木の乾燥(その方法)

しばらく間を空けてしまいましたが、木の乾燥について一言。
写真にある木はどちらも杉の木で、中心から挽き割っています。
濃いめの赤色が天然乾燥のもの、くすんだ赤色が人工乾燥(高温)のものです。
(杉の色はピンク色から黒まで様々ですので写真の色が全てではないですが、同様の傾向があるということです。)
写真では分かりにくいですが、人工乾燥のほうには中心部にひびがあります。
では、それぞれの材の違いは何でしょうか。(表をアップ予定)
木の形状:形状が変形しにくいのが人工乾燥、しやすいのは天然乾燥
木の香り:木の香りがするのが天然乾燥、焦げた木の香りがするのが人工乾燥
木の堅さ:固いのが人工乾燥、やわらかいのが天然乾燥
木のひび割れ:見える部分にひびがあるのが天然乾燥、内部にひびがあるのが人工乾燥
木の加工性:手工具で加工しやすいのが天然乾燥、機械加工が良いのが人工乾燥
木の粘り:しなやかに曲がるのが人工乾燥、曲がりにくいが脆いのが人工乾燥
木の油気:残っているのが天然乾燥、水分と共に出てしまったのが人工乾燥
省エネ:お日様の力を利用するのが天然乾燥、石油を利用するのが人工乾燥
今のスタンダードは、法規制の影響もあり、人工乾燥にシフトしています。昔から営々と続いてきた木を使いこなす作法を木の文化といいますが、木の文化を未来に繋げる運動をそろそろみんなでする必要がありそうです。
関連した記事が木の家ネットにありますので宜しければご覧下さい。
豆知識:人工乾燥には、高温乾燥(最高120度位)と低温乾燥(50度位)があります。低温乾燥は天然乾燥に近い性状ですが、高温乾燥よりも変形しやすいです。


2007年7月14日

素材を生かす

木には曲がったり、ねじれたりする性質があります。収縮や膨張などの形状変形も木の性質として当然あるわけです。最近の傾向では木は、より乾燥している方が良しとされ、当たり前のように人工乾燥材が使用されているようです。私にとってカラカラのカチンカチンになってしまった木には魅力を感じないばかりか、木の力や良さが生かしきれないことが残念でなりません。反ったり曲がったりする力をうまく組み合わせることが、将来にわたり安定した架構を保持し続ける筈なのに、、。個性を失ってしまった木は、既に木とは呼べないような気がします。木の癖を認め、見極め、うまく活用することが木造建築の木造たる重要な点ではないかと思いますがいかがでしょうか。最近建築基準法が改正となり、益々本来の木造建築が建てにくい状態になってしまっています。伝統や文化をもっと大切にしなければならないという思いが根付いていくことを願いながら、私自身も造り手として出来る限りの努力をして参ります。