伝統構法のもっとも伝統構法らしい構造要素でありながら、現在の建築基準法では建てづらい状況にあるため、なかなか施工されない石場建て。綾部工務店では、積極的に取り組んでいます。
石場建てとは?
伝統構法の特徴であり、自然と共生する建築のあり方を体現しているのが「石場建て」です。
今の建物にはコンクリートの基礎があり、土台などとしっかりつながっています。しかし、古民家やお寺などは、石の上に柱が載っているだけで、建物と礎石とは縁が切れています。これが「石場建て」です。
ジブリ映画の「となりのトトロ」で、メイが孔のあいたバケツで縁の下を覗いていて、チビトトロが縁の下に駆け込んで行くのに出会う場面があります。床下をのぞいてみれば、ずーっと向こうまで見通せて、柱の足元が石の上に乗っているのが床下の林のように見える、というのが、石場建ての建物の足元の風景です。それが、コンクリートがない時代には、あたりまえの風景だったのです。
社寺や古民家では
石場建てがあたりまえ
今では、コンクリート基礎を立ち上げた上に土台を敷いて家を建てますが、コンクリートのなかった時代には、このように礎石の上に柱を立て、足固めで柱同士をつないで、建てるのが普通でした。古民家や社寺の修理や再生においては、石場建てをきちんと扱えるかどうかで、その後の建物の寿命が大きく左右されます。
足元があいている=日常的に維持管理がしやすい
高温多湿な日本の気候では、建物の痛みは「足元」から来ることが多いのに、建築基準法通りにコンクリート基礎を立ち上げている家では、家の足元部分は見えません。
チビトトロが駆け込んでいっても、シロアリが這っていても、どこかの柱の足元が腐っていても「見えない」のでは気がつきようがないですよね。問題が起きているという意識がなければ、手を入れるのは遅くなります。初期に見つけていれば、すぐに手を打てたことでも、発見が遅れればそれだけ厄介なことになりかねません。
石場建ての家では、建物の足元の通気性がいいので、そもそも、防腐性、防蟻性が格段に違います。そして万が一、床下で何かが起きていたとしても、発見がしやすいですし、柱がそれぞれ独立基礎の上に乗っていますから、土台を敷いてある場合と違って「その柱の足元だけを直す」といったようなことも可能です。
この「メンテナンス性のよさ」が、石場建ての家の特徴であり、日本の古民家が長寿命であることに大きく貢献しています。(「メンテナンス性のよさ」と「メンテナンスフリー」とは違います)
設備面での工夫
建物の足元が動くのにつれて、配線や配管が引っ張られて破断してしまうと、ガス漏れや漏電につながりかねないので、余裕をもたせたフレキ配管にするなどの工夫をしています。現代住宅を石場建てでつくる場合は、昔は考えていなかったようなことも、想定しなくてはならないことがあります。
建物と地面が直結していない=地震力の入力を低減する
現代工法の家と伝統構法の家とでは、地震に対する構え方が違うことを、ご説明します。
現代工法では、筋交いや火打梁・火打土台など、力学的に強いとされる三角形の構造を取り入れる、木と木を金物でガチガチに固定するなど、剛性を高める方向での「耐震性能」を強化し、地震力に抵抗しようとします。一方で、伝統構法はその「変形性能」によって、地震力の入力を次のように段階的に減衰させる、つまり受け流そうとします。やや感覚的な言葉ではありますが、このように段階的に地震の入力を減らすしくみを、痛みや怒りを「散らす」という言い方に倣って、私は「散震性能」と名付けました。
第1段階 | 耐震 | 剛構造として 堅い土壁が初期の振動に抵抗します。 |
第2段階 | 制振 | 柔構造として 接合部などの変形による復元力によって抵抗します。 |
第3段階 | 免震 | 簡易免震構造として 石場建てであれば、柱脚が浮き上がったり、ずれたりし地震力の入力を減らします。 |
第4段階 | 倒壊防止 | 命綱構造 通し貫架構の超靭性により、倒壊を免れます。 |
地震の時の挙動は見ることができないのですが、私も実務者委員として関わらせていただいた伝統的構法の設計法構築と性能検証実験検討委員会では、石場建ての建物を実大震動台にのせて実際の地震波と同じ入力波で揺らすという実験をしました。私や仲間の多くの大工が、実験後に建物にどのような損傷が起きているか詳細に観察するという役でお手伝いしました。説明するよりも、その映像を見ていただくのが、何よりでしょう。
東日本大震災の時の、二例をご紹介しましょう。右の例では、瓦が落ち、壁が壊れて、修理するのも大工事となってしまいました。左の例では、建物が石場建ての礎石から多少ずれたおかげで、上部構造にほとんど損傷がありませんでした。二つの差は、足元の違いです。
伝統的構法の設計法構築と性能検証実験検討委員会に参加して
上記委員会では、実験検証部会と材料部会に、実務者として参加しました。要素実験の試験体のパターンの提案、作図、制作、大学での実験とどっぷりと関わりました。特に、実験のあとに損傷観察をするという役目を担当し、破壊の性状を知ることができたのは、大工としても設計者としても、貴重な体験となりました。
石場建てにするにあたっての法律的な課題
伝統構法の大きな特徴であり、メンテナンス性にすぐれ、地震の力を受け流す仕組みでもある石場建てですが、法的な整備はされつつあるものの、建築基準法には純粋な姿の石場建ての位置づけが乏しい状況です。
だからといって、これが違法だということではありません。通常の確認申請でなく、限界耐力計算で構造安全性を証明する計算書を構造適合性判定(適判とよばれます)に出して確認されれば、合法的に建築することができます。ただし、その分、費用と時間は石場建てでない伝統構法の場合よりは、余計にかかります。
どのくらいのアップになるの?
構造適合性判定に出すと審査料で約17万円、適判に出すための構造設計算書の作成や確認機関とのやりとりで約50万円、構造設計以外の意匠設計でも設計図書が増える分で設計料が約20〜30万ほどのアップとなります。
工事費としては足元まわりの仕口が土台仕様とくらべて施工複雑になる分、坪あたり単価で約10万ほどのアップとなります。